2016年4月26日火曜日

繋がり合う作品たち―平安文学作品の魅力―

(国語国文の研究紹介)

『源氏物語』成立よりも後の時代、平安後期に書かれた『夜の寝覚』(よるのねざめ)という作品を知っていますか? 主人公は〈苦悩の絶えない人生を送るだろう〉という悲しい予言をされた姫君「寝覚の上」です。ここで紹介するのは、その姫君をのちの恋人「男君」が初めて目にする垣間見(かいまみ)の場面です。ある月の明るい夜、男君は、訪問先の隣の邸から美しい楽の音が聞こえてくるのに気が付きます。幾重にも重なる竹林のなかをかき分けて邸の中をうかがったところ、そこには月の光のように美しい姫君がいました。あまりの美しさに「まるで〇〇〇のようだ」とつぶやいた男君は、普段は軽はずみな行動を決してしない人物であったのに、この夜ばかりは衝動的に邸に忍び込んでしまいます。

さて、男君が口にした「〇〇〇」ですが、ここにはある有名な古典文学作品の姫君の名前が入ります。「竹」「月の光」といった表現がヒントになりますが、気がついたでしょうか? そうです、『竹取物語』の「かぐや姫」が答えです。これは、物語の登場人物がまた別の物語の人物の名を口にする面白い場面です。それだけでなく、『竹取物語』を知っている読者であれば、かぐや姫と寝覚の上の〈重なり〉のみならず〈ズレ 〉にも気が つくことのできる場面 です 。というのも皮 肉なことに 、かぐや 姫が 男 性たちの 求 婚を拒 み 通 すことができたのに対し、寝覚の上は突然の男君の侵入になすすべもなく、その後苦悩を重ねることになるからです。この作品は寝覚の上の人生を丁寧にたどっていきますが、その際『竹取物語』を意識して読むことでこの物語の面白さは倍増します。このように、平安時代の文学作品はそれぞれが個別に存在しているのではありません。様々な形で作品同士が繋がり合っているのであり、それを念頭におき、また時にその結びつきを探りながら読むことで、古典文学のいっそうの魅力を発見できるのではないかと思っています。(高橋 早苗)

「新潟大学人文学部 2016 Campus Guide」より